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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)403号 判決 1968年11月28日

被控訴人 宮津信用金庫

理由

当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の本訴請求を理由がないものと判断するので、原判決の理由をここに引用する。

一、(省略)

二、控訴人の当審における主張について

(1)  控訴人は、被控訴人が昭和三九年一二月八日控訴人の普通預金通帳に同日金三〇万円の預金がありその結果差引残高は金五一六、〇〇〇円である旨を記入して控訴人に交付したから、右金額の預金債務の承認したものであり、これにより抽象的に右金額の預金債務が発生したと主張するけれども、預金通帳は設権証券とは類を異にし、単に預金の受入、支払、現在高等を記帳するための証拠書類にすぎないものであるから、同通帳に右のような差引残高の記入がなされたとしても、これにより預金受入れの原因関係なくして抽象的に預金債務が成立するとは到底解せられないので、控訴人の右主張は採用できない。

(2)  さらに控訴人は、被控訴人のような公的な金融機関がその発行にかかる預金通帳に預金の残高を記入してこれを預金者に交付した以上、後日に至つてその記載が真実に反することを主張するのは信義則に反し許されないと主張するが、預金通帳といえどもその取扱者の過誤によりこれに過つた記載がなされる場合のあることは否定できないところであって、前記預金通帳の性質上、かかる場合右の誤りが明らかになつたときにおいても、その事実を無視してあくまで通帳の記載に従つて当事者間の預金関係を処理しなければ、取引上の信義に反するとの道理はついにこれを見出し得ないので、この点に関する控訴人の主張もまた採用の限りでない。

したがつて、控訴人の本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

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